おすすめ第11弾!
『博士の愛した数式』(小川洋子)

読めば、読むほど、数字というものへの愛おしさが溢れてくる。

80分しか記憶が持たない老数学者と、お世話をすることになった家政婦とその息子が織りなす物語。

一見、無味乾燥に見える数字にこれほどのつながりや意味、輝きを与えてくれるなんて、まるで魔法のようだった。
きっと、こんな風に数字を学んでいったら、もっと数字と仲良くなれるだろうに。

すぐには役に立たない。
決してお金ももうからない。
だけど、そこには真理を映し出す美しい物語と歴史がある。
何千、何万という年月を経て、人類が積み重ねてきた叡智の結晶。
それが数字であり、数学である。

博士が教えてくれる一つ一つの数字や数式が、今まで見過ごしてきたものたちに彩りを添えていく。

勉強の本質とはきっとこういうところにあるのだろう。

答えがある学校で学び、答えのない社会へと巣立っていく。
そこに必要なものは点数や成績ではなく、もっと他のもののような気がする。

数字を見るだけで気分が沈んでしまう。
今、やっていることが何の役に立つのかわからない。
そんな人にぜひ本書をおすすめしたい。

数字どうしの関係、それは、博士の言葉を借りるなら、こういうことだ。

そう、まさに発見だ。発明じゃない。自分が生まれるずっと以前から、誰にも気づかれずそこに存在している定理を、掘り起こすんだ。神の手帳にだけ記されている真理を、一行ずつ、書き写してゆくようなものだ。その手帳がどこにあって、いつ開かれているのか、誰にも分からない”

その真理を美しいと思える感性。
そこにたまらなく心を惹かれた。

効率や実用性を追い求めがちな世の中で、こんな感性を持てたらどんなに素敵なことだろう。

数字は単なる数を表す記号ではない。
そこには隠された幾重もの苦難があり、秘められた幾多の思いが詰まっているにちがいない。

ロマン。まさに、そうなのだ。

友愛数や完全数、素数にルートなどなど、普段聞かないようなこれらの言葉も難解に感じさせることなく、少しの感動と爽やかさをもたらしてくれる。

また、博士は子どもに対しても数字と同じように溢れんばかりの愛情を向けている。
これほどの深い慈しみを世の親たちも持つことができたなら、もっと世界はやさしくなる。

何度読んでも、読むたびに新しい発見がある。

あなたが数の神秘に触れ、美しい真理に感動するきっかけになりますように。。。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
それでは今日はこの辺で。